※09/01/19発売のジャンプ本誌ネタバレ(+模造)です。ご注意下さい。










「ベスター」
 朝焼け間近の部屋の中、声を掛けられてライガーはのっそりと身体を起こした。
 獣の赤い瞳が声を辿る。裸の上に隊服の上着だけを引っ掛けたスクアーロが、神妙な面持ちでそこに立っていた。彼の背後にあるベッドの、その脇のチェスト上に置かれたナイトランプがか細くスクアーロの身体の線を描き出している。
 ベスターと呼ばれたライガーは、低く喉を鳴らす事でそれにいらえた。夜明けにも満たぬ部屋の中、獣の主人はまだベッドの中で眠っているからだ。
「……ベスター、」
 薄く笑って、スクアーロは跪いて獣と視線を合わせる。両腕を伸ばして鬣に突っ込み、わしわしと撫でてやるとベスターは心地良さそうに赤い目を細めた。
「オレは作戦隊長に任ぜられた」
 つい数時間前まで睦み合っていた相手を起こさぬように、スクアーロは声を努めて落としながら囁く。愛しげにベスターの身体を撫ぜると、彼は心地良さそうに喉を鳴らした。
「──光栄な事だぁ。オレはボスに認められてんだからなぁ。でも、ボスの隣にいられなくなっちまった」
 相槌を打つようにベスターの喉が上下した。指先でそこを柔く掻いてやりながら、スクアーロは静かに続ける。
「ベスター、……ザンザスを頼む。剣であるオレがあいつの傍にいられない時は、お前が牙だ。……ンだよ、」
 言葉の途中でベスターにぐいぐいと額を擦り付けられて、スクアーロが眉根を寄せて言葉を切った。鬣から手を引き抜き、押し返そうとしたら腕を甘く噛まれて舐め上げられる。びくりと強張ったスクアーロを見遣って、ベスターは彼の顔を勢い良く舐めた。
「解ってるって? ……煩ぇよ、」
 スクアーロは緩い動作で立ち上がる。さらさらと銀色の髪が流れて零れ、ナイトランプの淡い光に鈍く光った。ベスターがその赤い瞳を、一瞬だけついと細める。
「あの大空戦の零地点突破が余程トラウマらしいなぁ、オレは。……ベスター、てめぇが作られる前の話だぁ」
 再びスクアーロがベスターへと手を伸ばし、その額を撫でてやる。首を横に振って手の位置をずらし、彼は湿った鼻先をスクアーロの掌へと摺り寄せた。指先を曲げて浅く獣の肌を掻く。
 車椅子に縛り付けられながら見たモニター越しの氷漬けのザンザスは、スクアーロにとって悪夢以外の何者でもなかった。
 未だに囚われている己の弱さに嘆息して、スクアーロはベスターからそっと手を引く。
「──オレはもうザンザスを失いたくねぇ。ベスター、お前の牙に掛かってんだぁ。ヘマするなよ」
 主人を同じくするもの同士、護るべきものが同じもの同士、スクアーロとベスターはお互いに認め合うような仲だった。
 盟友のような彼にそう告げられて、ベスターは任せろと言わんばかりに低く唸る。

 夜明けがほど近い。対ミルフィオーレの主力戦開始まで、あと数時間足らずだ。


(09/01/19)