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黒子/青黄/冬コミで出したいなと思っている本の一部。タイトルは「ナイト・フィッシング」です。
「俺にしとけよ」
青峰の声はこんな時だけ矢鱈と鮮明で、黄瀬の鼓膜を、呼吸を、すべてを総浚いにしてしまう。心だってきっと例外ではない。左胸が痛む度に光に眩んで酩酊して、黄瀬の唇が戦慄く。
密度の高い夜だった。投げられた釣鉤が余りにも綺麗できらきらしていて、魚は掛からずには居られない。事実、眼前で青峰は燐光を得ている。彼と風景との境目で、頻りに雨が弾けて仄白くひかっている。
「黄瀬」
低く名前を呼ばれて、黄瀬は諦めたように顔を上げた。無造作に伸ばされた青峰の指先が顔の輪郭を辿って、造形を知った風に耳許へ掛かる。銀色のリングピアスが、にぶく月色を跳ね返して寡黙に煌めいていた。
「──俺にしとけ、黄瀬。てめえが超えられねえのも、眼を離せねえのも、生きてる内で俺ひとり位だろうが」
青峰の言葉は酷く静かだった。凪いだ海で釣れる気で居るなんて馬鹿らしいと、けれど黄瀬は笑えない。
釣られようとしているのは他の誰でもなく、まさしく自分自身だった。
「……あんたは、青峰っちは、俺じゃなくても良い筈っス」
「ふうん?」
「あんたにバスケの楽しさを連れ戻したのは、俺じゃなかった。黒子っちと火神っちだった」