003
BSR/サナダテ/次の本のラスト予定。獣になって約束を果たしに来た幸村。
さて、この世にも珍しい獣を手に入れた伊達政宗も、人の子である。
御年七十にて大往生を果たした政宗について特筆するべき事があるとすれば、あの獣についてに他ならない。
獣は酷く人めいた風体で、政宗の葬儀に参列した。だが埋葬まで終えて家人達が屋敷へ戻るまでには、獣はすっかり姿を消していたと云う。家の者が総出で探したが見つからない。あんなに目立つ獣だのに、どこかへ行く姿を誰も見ていないらしい。
まるで本当に人が変じたような素振りすら見せる獣だったから、と言い出したのは誰だったか。だがその時には既に夕焼けが空の端を燃える様に染め上げる頃合いで、だから明日にしよう、とまた誰かが口にしたのだ。一夜くらいは二人きりにさせてやってくんないかな。聞き覚えのない声でそうも言われた気がするが、はて。
兎角そうして夜が明けて、清々しい朝のうち、恐る恐る家臣達は政宗の墓へ足を運んだ。
「ああ、やっぱり」
溜息を零す様に、同行していた老臣が言う。そういう獣だったらしい。政宗が戦へ赴くならその傍らに寄り添い、時折馬の代わりにその背へ青い龍を乗せて。晩年には濡れ縁で、一人と一頭がまるで語らう様に陽溜りの中重なりあって。
政宗の墓の前で、獣は静かに横たわっていた。長い牙も伏せられた耳もそのままで、ただ、もう生きてはいないのだと容易く知れる様相だった。
獣は政宗の真横に葬られた。柩は土の褥だったが、これより上等なものなんて無いだろう。獣の柩はあの日政宗が哂った様に、往生した彼の隣へ据えられる事になったのである。
真新しい獣の墓の上に、烏が一羽舞い降りる。足場の上で器用に嘴を使い羽根を繕った後、音なく烏は青空に消えた。